東郷和彦著「歴史と外交 靖国・アジア・東京裁判」

「歴史と外交 靖国・アジア・東京裁判」東郷和彦著(2008年12月発行) >>
と言うのを読んだ。
東郷さんは北方領土の専門家で「対ロシア政策をめぐる混乱の責任」(まえがきより)により失脚した元外交官であり最近は密約問題についてのニュース番組に出演しているのを見た。
鈴木宗男議員と近い関係であったようだ。>ウィキ

が、この本は主にアジアと日本の関係についての諸問題を扱っている。
不慣れな分野の複雑な内容を短くまとめる自信は全くないのであるが、敢えて書くと、靖国神社、慰安婦問題、朝鮮半島と台湾への植民地支配のこと、広島長崎原爆投下、東京裁判などについて、一方的に日本の過去を否定的にとらえることなく、相手国の状態、国際情勢などをしっかりと現実的に見つつも、プライドと思いやりを持って言うべき事はねばり強く発言していこうと言うような意見だったと思う。
それが、国際社会で国を維持していくのに必須であるところの日本という国に対する尊敬を獲る道だと。
考え方の基本は至極まっとうなものなのだろうと思ったが、朝鮮半島での日本の振る舞いを「やり過ぎ」と程度を表す語句で評したり、憲法を改正する事への当然のような肯定など、1959年生まれ、朝日新聞を取る家で成長、結局ノンポリだったとは思うが割合左翼的な雰囲気なかで若い時代を送った自分とすると、ちょっと呑み込みづらいところもいくつかあった。
正直、理屈ではなくて反射的に不安になってしまうのである。。


しかしながらこの本は、確信を持って氏の意見を書いていると言うより、外務省退官後、世界各地の大学で教鞭を執る中での見聞、自分の発言に対するアメリカ人、韓国人、中国人などの思わぬリアクションの描写、それによって動揺したりいろいろ考える著者の姿が主でそれが面白いのである。
折しも、政府要人の不用意な言動に端を発して日本の歴史認識が諸外国の批判にさらされていた時期でのことが多い。

そしてなにより、この本は、著者の一族である東郷家の歴史が、日本近代史をめぐる話題の合間のほんの少しの記述でくっきりと読者の心にくっきりと浮かび上がるのが魅力だと思った。
東郷家は実は鹿児島県日置郡東市来町美山の薩摩焼の窯元で、豊臣秀吉の朝鮮出兵の折拉致された朝鮮人陶工の末裔で明治維新まで朴姓だったらしい。
明治維新の時に東郷姓となった。(ネットでの情報によれば陶工たちの住む笛代川地区は幕末まで朝鮮語を話していたという。>ウィキ
その話の直後に出てくる、伊藤博文を暗殺した韓国人安重根へのある種のシンパシーは複雑に捩れた影を持つように見えて実に味わい深く感動的である。
東郷和彦の祖父、茂徳は東京に出て外交官となるが、開戦時、終戦時に外相であり、東京裁判でA級戦犯となり獄死した。父文彦も駐米大使となる有能な外交官であった。
そして最終章にて、東京裁判時に祖父茂徳の弁護をつとめたアメリカ人弁護士ベン、ブルース、ブレークニー氏の茂徳が有罪ならば広島の原爆投下も殺人罪となる可能性にまで言及する本気の弁護とその後も続いたブレークニー家との親交の思い出でが出てくる。
幼い日の和彦が戦後まもなくのもののない時代に、ブレークニー家に行って食するチョコレートサンデーの懐かしく美しい思い出は、その話を織り込んだスピーチをした東京裁判についてのセミナー(2007,サンタバーバラ)の場面と共に語られ、この本での東郷家の歴史は結ばれるのである。

さて、この本は小説ばかり乱読してほとんど政治に関する本を読んでこなかった自分にも分かりやすく、また優れた小説と同じような面白さを感じさせてくれたのだが、ひとつ強く感じたのが、その面白さとなぜか同居する文章のドッシリしない敢えて言うとペカペカ安普請の軽い感じだった。センテンス一つ一つが、国の運命を左右する立場にいた人のイメージからすると意外なほど軽い手触りなのである。
全体とすれば、決して軽薄な内容を書いているわけではなく、いくつかの場面では感動的でさえあるのにである。

格式張らずにカジュアルに書こうとはしているだろうし、性格的にややおっちょこちょいで軽いのかなとも思わせるところもあるにはあると思ったのだが、要するに、文章に少しも粘りつくような官能的な感じがないせいだと思う。
東郷氏のように,決して偏執的にならないあくまで現実的な目配りに富んだ明晰で行動的な頭脳から出た文章というのは案外こういうものなのかもしれないと思った。
(唐突で、あんまりよく分からない例えだが、小生はカラヤン初期50年代の録音を思い出した。>音源
あるいは、職業柄、言葉の持つ言霊的なモヤモヤとしたものを意識的に排除するような言葉遣いになってくるということもあるのだろうか。
しかし、同じく宗男議員にからんで外務省を辞めた佐藤優の「国家の罠」というのも面白く読んだが、こっちは文章に強い推進力と匂うような色彩感、ずっしりとした充実感があった。。。。、


ものつくりの端くれとして、国民として、この本を読んで、その文章のあり方にも非常に興味深いものを感じたわけである。
自分にしては珍しく2回も続けて読んでしまった。。。






(6/3アップ、6/4加筆)
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Tag:読書(文学)  Trackback:0 comment:6 

Comment

洒落陶 URL|
#mgYVv8Vc Edit  2010.06.04 Fri11:03
どうも私を含めて、薄っぺらな報道を信じてしまい、批判しがちですね。
鈴木さんと佐藤さんは、社会的に一度葬られたのを、自力で復活した例でしょうね。佐藤さんの
書いたものを読み、外交の奥深さ、複雑さが
少し理解できました。なんで良いワインを
大使館が備蓄しているかなども。
東郷さんも、佐藤さんの問題の時に名前が出てきた位の記憶しかないです。
たしか、討ち入りの四十七士の中にも中国系の
人がいたと思います。
事象をマスコミ報道だけでなく、当事者が書いた
ものを読むと、自分の見方もかわりますね。
なお、佐藤優さんは、裁判が継続中で休職扱い、
給料も出ていると書いていました。と思います。
 URL|洒落陶さん
#F.S2sd/w Edit  2010.06.04 Fri14:53
やっぱり、当事者の書いた本を読むとマスコミとは違った事が沢山出ていて、理解は少し深まりますよね。
しかし、マスコミにしろ、当事者の本にしろ、やっぱり人づてにしか分からないのが歯がゆいです。。。本当はどうなっているんだろうと。
でも、仕方がないんですよね。
当事者でもよく分からないことがいっぱいあるんでしょうね。

そうですか、四十七士の中にも中国系の人がいたのですか。
単一民族という考え方が強調されたのは明治以後という話を聞いたことがありました。
東郷さんは、薩摩焼の朝鮮系窯元の家ということで、オッとビックリしました。
ちなみに、東郷平八郎も鹿児島らしいですね。

そうでした、佐藤さんはやめてはいないんですね。
ご指摘ありがとうございました。

ところで、鳩山さん辞めましたね。。
政治には絶望的な気持になってしまいますが、私のようなものも多少真剣に興味を持つようになったのは民主党さんの功績かなと思ったりしています。
洒落陶さんの影響もありますが(笑)
イワノビッチ URL|
#- 2010.06.05 Sat12:08
いつも楽しく拝見しております。
伝統的と思っている事柄に実は明治になってデッチあげられたものが多いらしいです。たとえば神前結婚とか。
江戸時代は朴姓のままだったんですか、その後の半島への侵略政策が国内にも反映したのですね。
調布の神社の骨董市に行き,駅へともどる途中で佐藤氏をみました。お子さん連れでした。彼も骨董市にいったのかな?佐藤氏はたしか学校は神学科出身でキャリア組ではないのですよね。
今晩,私は﨑浜アリーナです。そうそう!11月は東京ドーム決定です。娘さんにお伝えください。
銀 URL|イワノビッチどの
#F.S2sd/w Edit  2010.06.05 Sat19:57
> いつも楽しく拝見しております。

ありがとうございます!結構真剣に書いていますので。。。。

> 伝統的と思っている事柄に実は明治になってデッチあげられたものが多いらしいです。たとえば神前結婚とか。

ああ、そうですね、いわゆる楚々とした和というのもそうかもしれないですね。
大坂の某巨大古墳の前方部を末広がりに広げたとか、醍醐寺だったと記憶しているのですが、有名な五重塔の屋根の反りがもとはもう少し跳ね上がって唐様だったとか、K寺の国宝弥勒の顔を修復時に結構削って、もとの朝鮮風?北魏風?の豊かな頬を多少細身にしてしまったとかいいますが、うまいこと文化財を「和風」にねじ曲げたりしたこともあったみたいですね。
私みたいな脂っこい縄文人には辛いものがあります(笑)

> 江戸時代は朴姓のままだったんですか、

そうです。なんでも士族株とか言うものがあったとか。それを買って姓を変えたというような話がウィキにでておりました。
陶磁器の歴史では、磁器も有田の泉山で日本初の陶石を発見したのは李参平という朝鮮人だったようですし、秀吉の朝鮮出兵の際連れてこられた陶工に負うものが随分と大きいのです。

>その後の半島への侵略政策が国内にも反映したのですね。
自分の知識ではよく分からないのですが、もしかすると征韓論とか日朝修好条規とかと関係あるのかもしれませんね。
そうだとすると、なんだか、胸がひりッと痛くなるものありますね。

佐藤さんは同志社ですね。あのキャリア、ノンキャリアというのはどうもよく分からないのですが、ウィキではノンキャリアと書いてありますね。あの顔は目立ちますよね。
「国家の罠」「帝国の崩壊」はもの凄く面白かったです。

コンサート、お気をつけて堪能してきてください。

洒落陶 URL|
#mgYVv8Vc Edit  2010.06.07 Mon16:13
菅さんに決まりましたね。個人的には鳩山さんより期待できるかなと思います。
こちらも、日本で、初めて磁器を制作した李参平の李が、金ヶ江になり、直系の子孫もいます。
それぞれ、出兵した藩が連れ帰ったようです。
有田焼(佐賀藩)、三河内焼(平戸藩)波佐見焼(大村藩)。隣町どうしなんですが
藩が違っているのです。歴史的には、ほぼ一緒でしょうね。
銀 URL|洒落陶さん
#F.S2sd/w Edit  2010.06.07 Mon18:18
コメントありがとうございます!

> 菅さんに決まりましたね。個人的には鳩山さんより期待できるかなと思います。

そうですね、個人的には岡田さんが、なんとなくハードなイメージで好きだったのですが、なんかちょっと明るい気持ですね。
こんなに首相が替わって嘆かわしいという空気でしたが、かわってみると、結構期待しちゃいますね。

> こちらも、日本で、初めて磁器を制作した李参平の李が、金ヶ江になり、直系の子孫もいます。
> それぞれ、出兵した藩が連れ帰ったようです。

金ヶ江さんはテレビで見たことがあります。
なるほど、各藩がそれぞれ連れ帰ったということなのですね。
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プロフィール

ぎんよう

Author:ぎんよう
彫刻家でもある鈴木厚が磁器を中心に器を制作しています。

我が家の掃除機の塵の放射性物質
Cs137:641Bq/kg(検出下限39.7)
Cs134:211Bq/kg(検出下限19.3)
Cs合計:852Bq/kg(検出下限58.0)
採取時期:2014/1月~2014/3月

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